【大峰】残雪の稲村ケ岳(1725.9m)


【行き先】大峰・稲村ケ岳(1725.9m)
【期 日】2006年3月21日(火)
【メンバー】矢問 単独
【コース】 母公堂−法力峠−稲村小屋−稲村ケ岳(ピストン)
ラジオで新潟と群馬の県境で山岳遭難のニュースが流れている。
八ヶ岳でも遭難のニュース。今日の大日山北面の斜面の通過が気になる。
気を引き締めてトラバースしようと思う。

以前、工事していたゴロゴロ水の所は綺麗な駐車場もできていた(300円)。
母公堂 稲村ケ岳 登山口
6:30
1台も車が停まっていない母公堂前の駐車場(500円)に停めて、右手にある登山口から
スタート。登山道に雪は少ないが稲村小屋から先は油断が出来ない。12爪アイゼン、ワ
カン、ロープ、ピッケルを持って行くことにした。

この道を昔々から修行者は何人ぐらい通ったのだろう。海外の某女性人類学者は日本の文
化を「恥」の文化と言っていた。初詣でも商売繁盛や家内安全を祈り、めでたいことの祝いは
するが、「罪を告白して許しを請う」とか「懺悔する」という事はせず、「恥」として覆い隠す事が
多いと言っていたような事を思い出した。だから「生け贄」のように罪を命で償うようなことは
日本人には理解できないとかなんとか・・。(不確かな記憶(^^;))
でも奥駆けでの修行では「懺悔 懺悔 六根清浄」と声を出して奥駆けをされている。
この「懺悔」は西洋の「懺悔」とは別のものなのかな・・・とかいろいろ思いを巡らせながら
一人静かな登山道を歩いた。
雪が残る登山道に先行者の足跡が出てきた。僕より早く五代松鍾乳洞の方から来たのか。
それとも昨日の足跡か。1人ではなさそうだ。2〜3人かな。
法力峠 デカイ熊の足跡が・・・
7:20
法力峠。最近では、2003年1月に佐野さん、いるかさん、MICKEY、ナイトンと観音峰から
の下山ルート
でここを通ったことを思い出した。
ここから10分ほどでトタン小屋。そこからは植林帯から自然林に変わり大日山が見える。

崩れた谷間を渡る。崩れやすいところの大抵は鉄の橋がついているがついていない所も。
「うわっ・・・」大きな熊の足跡! いくつも出てきたが、左斜面上へと消えていった。
新しい水子地蔵がある。その次の鉄の橋は斜め向きにつぶれていて後ろ斜面を通る。
カチンコチンの氷面で慎重に通過するも「うわっ!」と滑ってイナバウワーポーズ。
壊れた橋の向こう側斜面を通る 稲村小屋
8:35
稲村小屋。誰も周囲にいなくてひっそりとしている。通過して登りにかかる。
尾根筋になり正面に大日山が見えてきたあたりの登山道でアイゼンを装着し、ストックを
ピッケルに持ち替えた。風が冷たく帽子をかぶり防寒に雨具の上着と手袋もつけた。
大日山を見ながらアイゼン装着 大日山北面のトラバース開始
9:15
大日山の左横の斜面トラバースが始まる。1人通ったような小さな足跡がある。
この大日山は、小山伏さん達と2000年に神童子谷を遡行したときに登ったことがある。
稲村ケ岳の山頂は2峰に分かれ、北側のやや低いこの岩峰の大日山が岳の本峰で、
狭い山頂に大日如来を祀ってあった。雨乞いに村人達が登った信仰の山である。

今日の目標は「稲村ケ岳」なので、大日山を登るのは1人じゃコワイし今日はパス。
気合いを入れて大日山の北面トラバーススタート。ピッケルのスピッツェをしっかり刺し、
滑落に注意するが実にコワイ斜面だ。下までズーッと見える斜面。こういうのは苦手(^^;)。

1人通ったような、足の三分の一程度のつっこんだ足跡は同じ所を2人ほどいった感じ。
僕もそこへ足を入れるが雪が凍っている所と緩んでいるところがあり、実に緊張する。
前方で呼び合ってる声がするが姿が見えない。トラバースをしばらく進むと右上に2人の
人影が見えた。ロープをはって1人が大日山に登ろうと取り付いているようだ。
僕がトラバースしている地点にその登攀者の氷や雪塊や小さな落石があり気が気でない。
「落ち着け」と自分に言い聞かせながら2人のいる上の鞍部へと斜面を慎重に登った。
鞍部に着いた。「おはようございます」鞍部には2人。大日山に取り付いているもう1人
の姿は見えない。「大丈夫か〜」と鞍部の2人は上に大声をかけるが声は無し。
鞍部から先の稲村ケ岳への斜面 鞍部の先から大日山を見る
この鞍部から先は誰の足跡もない斜面が続く。拡大してきた地形図を再度確認し「お先に」
と腹をくくって進む。ズズッと滑るのはアイゼンについたダンゴのせいだ。雪ダンゴをこ
まめにピッケルでたたき落とさないと滑落する。「落ちてたまるか」緊張が続く。
尾根への凍った急斜面 斜面を登りながら 剣の塔
9:30
トラバースが終わった。右手には尾根に続く見上げるような斜面。ピッケルで叩くが凍って
いてカチンコチンだ。まっすぐ斜面をトラバースを継続進するにも傾斜がきつくて無理。
凍った斜面を見上げて、「どうして登ればいいのやら・・」とコワイ斜面に続く下を見てしまう。
ピッケルバンドに手を通し、ピックをガツンと凍った上への斜面に刺してシャフトをしっかり
持ち、アイゼンの出っ歯を凍った斜面に差し込みジワッと体重を移動させ慎重に登攀する。
尾根にある剣の塔にドンピシャで出た。ここからはシャクナゲの痩せ尾根づたいに進む。
心の中で「帰路にこれを下ってくるのは相当こわいなぁ(^^;)」と思いつつ・・・。
稲村ケ岳 山頂展望台 樹氷が桜のように見える
こちらの樹氷も桜のようだ 素晴らしい展望
9:50
稲村ケ岳の三角点にタッチし展望台に登る。素晴らしい展望。樹氷が桜のように見える。
昼食にはあまりに早いし空腹ではないので、展望を楽しみ写真を撮りまくった。

下山にかかり剣の塔のところまで来たら下から僕のトレース通りに先ほどの3名が登って
きている。途中ですれ違うことは不可能な斜面なので待つことにした。
「疲れた〜。この登りもきついなぁ。」3人は写真を写しに来たらしい。写真の器材が背
負子に満載だ。「大日山は登れましたか。」と聞くと「だめ、だめやったわ〜」とのこと。
3人が終わって下ろうとするとまた1人。単独行のようだ。「夏道とえらく違いますね」
と。斜面の雪が緩まないうちにあの大日山北面のトラバース地点を通過したいので
登攀時に心配した急な斜面を慎重に下った。登るよりも下りは実にコワイ(^^;)
雪塊が斜面を滑り落ちていくのを見るとなおさらだ。「慎重に。あわてるな」と言い聞かす。
斜面を下りながら またここをトラバースか・・ もう少しで終わるトラバース

10:30
「やっとこのトラバースも終わる」と思ったそのとき「カーン」とピッケルが雪の下の岩には
ねかえった弾みでバランスが崩れて思わずのけぞった。「ムムッ」と踏ん張って足が浮く
のを防いだ。「危なかった・・・」足が浮いていたら滑落していただろう・・。ホッ。

稲村小屋手前でアイゼンをはずして小屋へと下っていくと別の3〜40代の男性3人組が
休憩していた。「山頂へ行けましたか」「大日の横を通過できましたか」と聞かれ「今も
4人が山頂にいますし、もうトレースもつきましたよ。慎重に行けば可能と思います」と
話し、僕は「ここでラーメンでも作ろうかな」と思っていたがお腹も空いていないし、ゆ
っくりとした歩調でそのまま先へと進むことにした。

登ってくるときに苦労した凍った斜面の2カ所はアイゼンをつけて通過。ラクチン。
中年の男性1人が登ってきた「ワカンは要りましたか」「要らなかったですよ」。
次に軽登山靴のご夫妻連れがアイゼンを手に持って登ってきた。次に男性の単独者。
そして最後に空身のような軽そうなナップザックの女性1人が「アイゼンが要りますか」
「絶対に要ります。ありますか」「持っています」といいつつすれ違った。が、ストック
もピッケルも無い様子だ。あのトラバースや斜面の登攀と下りはあの装備ではきっと無理
であきらめるだろう。トップで着いた山頂から下ってきて、これで11人とすれ違ったが、
装備からみて全員は山頂には行けないだろう。
「積雪や残雪の頃の稲村ケ岳」は決して甘く見てはいけないと思う。

11:35
法力峠。休憩がてら座り込んで、パン2つを食べた。静かで気持ちいい。

12:20
下山完了。「温かいコーヒーでも飲んでいきなさいよ(^^)」と母公堂の左の小屋から出て
きたおじさんに声をかけられた。「なれた人はこの賽銭箱に500円入れていくんだけど、
初めてかい」と、コーヒーを用意してくださった。さらにぼんち揚げまで。
鹿が増えて困ったことや、あめのうおや兎が減ってしまったことなど、いろいろとお話し
してくださった。芦生の講習会で京大の教授や村の人から学んだ鹿や野草の変化を話すと
「ホーッなるほどなぁ。いい話しを聞かせてもらった(^^)」と喜んでくださった。
この周辺のお話しを聞かせて頂けコーヒーやお菓子まで頂き、500円の駐車料金は安い!

洞川温泉(510円)で汗を流して帰路についた。早い時間で温泉もたった5人だ(^^)
下市町の栃本あたりの斜面は梅の木が沢山あり満開状態。カメラマンが何十人もいた。
車でWBCの経過を聞いた。日本がキューバに勝っている!優勝だ!。世界一だ!

本日の稲村小屋から稲村ケ岳の核心部ルート
この1つ前の記録は「南紀・大塔山」の記録です